アル・ゴア氏と「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が今年のノーベル平和賞を受賞した。受賞理由は「人為的に起こる気候変動についての知識を広め、その変動を打ち消すために必要な処置の基盤を築く努力」。IPCCは1988年に設立された数千人の専門家による国際組織で、地球温暖化に関する最新の知見を評価し、報告書を提供して来ており、今年は第四次評価報告書を発行し、大きな話題を巻き起こした。

さすがの米国ブッシュ大統領も地球温暖化を無視できなくなったようである。その大統領と選挙で争い、総得票数では勝っていたが、代議員獲得数で破れたゴア氏は1997年、クリントン政権の副大統領当時に米国代表として京都議定書をまとめる重要な役割を果たした。しかし、持ち帰ったこの国際公約を、議会の承認を得られないまま、批准できずに任期を終わってしまったことで、ゴア氏に失望したものだった。

ところが落選後、昨年から評判になった『不都合な真実』を引っさげて、一千回以上も各地で講演活動を行っており、映画も制作したという。こうした地道な努力が世界の世論に与えた影響を思うとゴア氏に対する考えを改めざるを得なくなった。既に学生時代から関心を持っていたということも含めて。受賞はその活動に対するものだが、地球温暖化に対する関心を盛り上げる効果が大きい。

ブッシュ大統領が就任直後に京都議定書から離脱すると宣言したことは、当時の米国の空気を代表していたと今にして思えば気がつく。しかし、ハリケーン・カトリーナに代表される異変を経験し、少なからぬ州・都市が独自の動きを始め、大企業がまとまって議会に働きかける等で、連邦政府も態度を変えざるを得なくなってきた。

西欧諸国は、低炭素社会を視野においた国家目標を打ち出して世界をリードしている。また、発展途上国といえども温暖化は先進国の責任だとばかりの主張をひかえポスト京都を見据える動きをしてきている。最近ではオーストラリアで政権交代があり、新政権は京都議定書を批准すると公約している。サミットで本格的に地球温暖化が議題に取り上げられたことも含め、振り返ると今年は画期的な年と思えてくる。こうした動きの波は下のサイト"温「断」化ニュース"参照。
http://www.es-inc.jp/edablog/ondanka/archives/index.html

日本はどうかというと、来年に始まる京都議定書の約束を果たすにはCO2を現状から14%減らさなくてはならず、大変厳しい。またポスト京都に向けた世界の流れに取り残されないように政治家には頑張って貰わねばならない。まず来年の洞爺湖サミットに向けて十分な戦略を練り開催国としてリーダーシップを発揮して欲しいものだ。

我家の対策、買い物袋を持って出る。エアコン1台と給湯器を高効率のものに買い換えた。トイレ、風呂場、玄関灯以外は蛍光灯に取替等。「ハチドリの一滴」と笑うことなかれ。

『不都合な真実』は有楽町まで出かけ大画面で迫力のある映像を見て、翻訳書も読んだが、買わずに読んだと言うところをチョット自慢させて欲しい。実は翻訳者は枝廣淳子さんで、当欄の拙文「セヴァン・スズキを知ってますか」で登場済の人だ。7年前から英文和訳力を磨くという彼女の環境英語メーリングリストの常連になっているが、時折翻訳コンペが行われている。同書翻訳中の昨年12月にその一節を課題としたコンペが行われ、最優秀賞が翻訳書というわけであった。月面に下弦の地球が浮かぶ12ページ目にある文章だ。この年になって初めての嬉しい経験だった。

この環境英語メーリングリストからは既に翻訳書を出してプロデビューした人も出ているが、そこに至る道は険しい。人に先を読みたいと思わせる翻訳をすることは、日本語能力に関わることでもある。何とか力を付けて役立つボランティアになりたいと思う。

サポーターでボランティアをしている「ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)」のその後について紹介すると、8月に設立5周年を迎え、月刊ニュースレターの配信先は189カ国、8972人に拡大し、ウエブのアクセス数は月6万件に達している。毎月30件出している日本の環境情報のデータベース掲載件数も11月末には1890件になった。ちなみに私の書いたニュースレター原稿5件、データベース原稿160件。発信した情報に対する海外からの反響も大きい。国内でも「国内の持続可能性に関する優れた取り組みを独自に取材し、データベースとニュースレターを作成。全ての内容を英訳して、日本の優れた技術や取り組みなどの情報を世界中に発信し続けている」と活動が評価され、「平成19年度 地球温暖化防止活動環境大臣表彰(国際貢献部門)」を受賞することになった。
http://www.japanfs.org/index_j.html
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=9118

こうした取組が受賞することは、日本からの情報発信がいかに少ないかを示しているわけで、JFSの活動に関わっていくことに意義を感じている。

2007年12月3日
                                  小柴 禧悦(化工会)

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