2年半前に寄稿した「2007年ノーベル平和賞」に椎名さんから戴いたコメントの中に水素に関することがあり、私の考えを述べたことがありました。その当時は夢物語であった水素社会への道程について新しい動きが出てきているので、ご紹介してみます。よくご存じの方は補足なりコメントをお願いします。

水素を大量に貯蔵し輸送し消費地で使える道が開けるというのです。まずは千代田化工建設が提案する「水素サプライチェーン構想」をご覧下さい。

千代田化工建設:水素の大量貯蔵輸送技術
http://www.chiyoda-corp.com/technology/future/hydrogen.html

水素をトルエン(C7H8)に固定させて、常温・常圧で液体のメチルシクロヘキサン(MCH:C7H14)として輸送・貯蔵し、利用場所で脱水素反応により水素を取り出し、トルエンを循環再利用する方式(有機ケミカルハライド法水素貯蔵輸送技術)。

1モルのMCHから3モルの水素が取り出せるので、タンカーで20万トンのMCHを持ってくると約1万2000トン(1億3400万Nm3)の水素が得られることになる。トルエン、MCHは石油製品なので、必要になるインフラは既設の石油インフラが転用可能。

水素をトルエンに固定するプロセスはすでに実用化されているとのことであり、一方、脱水素触媒の開発は千代田化工において目処が付いているようです、以下参照。

低炭素社会の実現を目指した水素の大量貯蔵輸送システムの開発
http://www3.scej.org/meeting/75a/abst/P204.pdf

また、以下は長文ですが、千代田化工の岡田氏の講演と質疑応答で、分かりやすく概要を理解できます。脱水素反応に必要な反応熱が気になるところですが、水素の持っているエネルギーの2割強にもなるので、例えば天然ガスのガスタービンの排熱を利用するような、利用先の機器とのハイブリッド化が課題であると述べています。

第21回 地球大学アドバンス 「水素社会のグローバル・エンジニアリング」
http://ecozzeria.jp/earth/event/advance-21.html

肝心の水素の方ですが、化石燃料由来のものから風力、太陽光、太陽熱、水力などの再生可能エネルギーにより発電された電気によるものまで種々あります。その中で原子力を利用した高温ガス炉を用いて水素と電力を併産するコジェネレーションシステムの研究開発が行われていることを知りました。

高温ガス炉による水素製造を目指して、ヨウ素と硫黄の化合物を用いて水を熱分解する熱化学法ISプロセスがそれで、1週間の連続水素製造に成功したとのことです。

同プロセスを組み込んだ水素サプライチェーン構想については、以下参照。

水素社会に向けた革新的水素サプライチェーン構想
http://www3.scej.org/meeting/75a/abst/P203.pdf

原子力水素・熱利用研究センター
http://133.188.30.70/04/o-arai/nh/jp/_top/top.html

ISプロセス研究技術開発
http://133.188.30.70/04/o-arai/nh/jp/intro/is/is_top.htm

太陽光を利用した発電システムを砂漠に展開するといった海外ニュースが頻繁に紙面を飾っていますが、太陽電池パネルを敷き詰める方式の一方で、太陽光を集光し熱的に利用する方式も盛んになっているようです。今年1月に山梨県北杜市に国内では約30年ぶりとなる太陽熱発電(300kW)の計画について報道されましたが、東工大の玉浦研がかかわっています(東工大 産学連携推進本部メルマガ67号)。玉浦裕教授は国際的にも活躍されており、2年前にJFSの記事に取り上げたことがあります。最近の研究成果の中に集光太陽光と金属酸化物を用いて水から水素を発生させる研究もありました。

玉浦研
http://www.chemistry.titech.ac.jp/~tamaura/tamaura/content.html

アブダビ、コスモ石油、東工大、集光太陽熱発電技術の共同実証
http://www.japanfs.org/ja/pages/024768.html

一通りリンクを当たっていただけたでしょうか。眠くなって途中で止めてしまったかも知れませんね。しかし、たまには現役時代を思い出すよすがとするのも、また楽しからずや。

2010年7月29日
                                  小柴 禧悦(化工会)

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