横浜の石川町に住んで十数年になる。石川町は横浜中華街のある山下町に隣接する町である。私の住んでいるマンションから中華街へは歩いて数分で行けるので、中華街へは頻繁に出かけている。中華街には約2百軒の飲食店があるが、そのほぼ半数の店に入って食べてみたことがある。それだけ中華街へ行ってみると美味しい店、そうでもない店の区別が分かるようになってきたので、独断と偏見はご勘弁の上、私が美味しいと思った店など中華街を紹介しよう。

  中華街の中心である善隣門から始まる中華街大通りには、へい珍楼や萬珍楼など最高級の店があり味は素晴らしいが値段が高いことや予約が必要な店もあり、また中華街大通りに面した店は割高である。一般に中華街の料理の値段は割高で、中国人や中国料理をよく知っている人たちは中華街を避ける傾向にある。中華街でなくても美味しくて安い中国料理を出してくれる店は他の場所にもたくさんあるからだ。しかしここでは、中華街へ遊びに来る人の為にお勧めできる店をいくつか紹介することにしよう。

  去年の秋までは私が最もお勧めする店は市場通りの菜香本店だった。広東料理の店で特に飲茶が有名な店なので、急に行っても満員で入れないことが多かった。残念ながら11月に店を閉じて一本東側の通りの上海路にある「菜香新館」と合併した。菜香新館は立派な店構えで一寸高級な店のためか値段が高くなってしまったのが残念である。しかしさすが菜香、味は最高(クラス)だと思う。点心類の種類が多く美味いのがこの店の特長である。
  紛らわしい名前の店で大通りから香港路へ曲がる角に彩香という店が出来ている。菜香にあやかったネーミングと思うが、そこには未だ入ったことが無いので評価はできない。

 中華街で最も長い行列が出来る店は、ずっと以前から今でも香港路の「海員閣」である。私は行列で長く待たされないように開店少し前から並んで入ったことがあるが、特別に美味くも安くもないと思った。その後に行った時は店員の応対が横柄だったので店に上がらなかった。この店がなぜ相変わらず人気が続くのか不思議である。

  私が良く行く店でお勧めは福建路にある「慶福楼」だ。福建料理の店で味は広東料理に近いと思う。値段は中華街標準と言ったところで高くはない。中でも特に美味しい料理は五目おこげだ。ご飯のおこげに五目あんを掛けた単純なものだがこの店のおこげ料理は特に美味い。二千円ぐらいするが量が多いので二人以上でないと食べきれない。またこの店は麺が美味く、特にパイコー麺(豚のスペアリブの揚げたものが麺にのせてある)がよい。また特大の餃子も美味い。この店のマイナス面は教育が不十分な小姐(シャオチエ、店員)が居ることもあり、その時は一寸不愉快な思いをすることもある。

  中国料理で代表的なものに北京ダックがある。北京ダックは人気がある料理だが私はあまり美味いとは思わないし、中国の北の方の料理は一般的に脂っこくて塩味もややきつい。南の広東料理が日本人の口に合うように思うし私も好きだ。上海料理も美味いが脂っこい料理も多い。
  ご参考までに北京ダックのコース料理が極めて安い値段で食べられる店を紹介しておこう。中山路で大通りより北側に一寸入ったところの「楊州茶楼」がそうで、同じグループの店に香港路の「楊州酒家」もある。アヒルは皮を北京ダックにして、残りの部分も料理してコースにしたものだ。アヒル半羽5点セットでなんと4,725円とたいへん安く、しかも3人前分はある。ただし味はあまり期待できないかもしれないがまあまあである。

  横浜中華街にはお粥の店が多い。大通りの奥の方に「謝甜記」という人気のある店があるが、いつも混んでいるので待たされる覚悟が必要である。それよりも香港路の「安記」の方が入りやすく、なかなか美味いお粥を出してくれる。また長安道にある「好好亭」のお粥もよい。
  中国粥は香菜(シアンツァイ、中国パセリともいう)を粥の上にのせてくるのが本来だと思うが、香菜が嫌いな日本人は約半数居るためか香菜が付いていないことが多い。私は香菜が大好きで香菜が無いと物足りない気がする。香菜はヨーロッパではコリアンダーと言い、フランス料理などには良く使われており、調理で熱を加えてあるから臭いはきつくない。コリアンダーはまたビールにも使われている。ベルギービールで日本では最も人気があるとされているヒューガルデンホワイトのラベルにはコリアンダーが添加されていることが明記されている。このビールはオレンジピールも加えられていてそれは少し香るがコリアンダーの方は私には分からない。

  珍しい中国料理としては関帝廟通りの奥の方にある「東園」のつけワンタンがある。ワンタンは普通スープに浮いているものだが、このつけワンタンにはつゆが無い。つるりとしたワンタンにたれをつけてつるりと食べるのだが、夏は特に美味く評判である。つゆが無いと言えばつゆなしネギそばで人気のある大通りに面した「海南飯店」がある。真夏にはたいへん美味いので、私は時期になると何回かつゆなしネギそばを食べに行っている。

  中華街のお土産として中華饅頭が人気があるが、地元で評価の高いのは大通りの奥のほうにある華正楼本館のものではないだろうか。ただしこの店の物は日持ちが短く一日二日で食べなければならないようだ。一週間ぐらいもつものもあり、大通り入り口角のへい珍茶楼などで入手できる。
  シュウマイも多くの店で買えるが、地元では関帝廟通りの真ん中あたりにある「清風楼」のものが人気があるようだ。やはり長持ちはしないので二三日で食べる必要がある。

  横浜中華街でも店によって味はピンからキリまである。せっかく中華街まで行って美味しい店に当たらなかったらつまらないので事前に情報を入れておく必要がある。その情報も雑誌や本のものは広告宣伝の為のものがあるから真偽の区別が難しい。やはりよく知っている人から教えて貰うのが一番良いのではないかと思う。

  横浜中華街での買い物について少し述べておきたい。中華街での商品は透明なフィルムで包装がされているものが多い。これは商品の品質が見え易いようにする工夫であろう。中国では物を購入する時点で商品を良く見て調べてから買う習慣がある。欠点が後から見つかっても取り計らってくれないと言われている。私の経験では紙に包装されていて中身が見えない中国茶を買ったとき、家に帰ってから気がついたのは粉が非常に多くて品質の悪いものだった。恐らくお茶の大きな缶の底に溜まったもので、中身が見えないとこういうものも売りつけられるのかと恐れ入った。中国旅行で記念品などを買って騙された経験のある人も多いと思うが、横浜中華街でもよく気をつけ買ったほうがよい。

 最後に上記の店の地図を添付するので下手な地図で申し訳ないのですがご参考にしてほしい。

2009年2月18日
                                  乙部 軒堂

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